Table of Contents
1 プロジェクトの概要
Hatch Embroideryを使って、手描きスケッチのハイビスカスをデジタイズし、実機で刺繍できるPESに書き出すまでを扱います。主眼は「縫われる順番を意識した設計」と「ステッチ方向・幅・テクスチャのコントロール」。完成像は、白の雄しべ、ピンク系の花弁と輪郭、クールブルーの円形ステップル背景です。

1.1 いつ・なぜこの方法か
・曲線に沿ってステッチを流したいときはDigitize Blocksが有効です。ブロックで“幅の道筋”を描くことで、後工程の角度付けも安定します。 ・スケッチ的な揺らぎを活かすなら、葉脈はFreehand Open Shapeで連続線にし、トリプルランで存在感を出します。

1.2 適用範囲と制約
・本稿はHatch Embroideryの基本理解が前提です(動画でも同様)。 ・具体的なステッチ数や最終刺繍時間、機種固有の上糸/下糸設定は動画では言及されていません。 ・マシンや生地による“引き”は避けられないため、花弁の外周は意図的に外側へ少し逃がしてトレースします。

2 準備:素材・環境・ファイル
デジタル環境の整え方と、作業が滞らないファイル運用を先に固めます。

2.1 用意するもの
- ソフトウェア:Hatch Embroidery(デジタイズ機能)
- アートワーク:ハイビスカスのスケッチ画像(解像度は画面で葉脈が判別できる程度)
- 糸色イメージ:ピンク(85/86相当)と白、背景用のブルー
ここで、実機で試す際の固定について考えておくと後のテストがスムーズです。たとえば薄手〜中肉の生地で、位置合わせと張りが課題なら、マグネット刺繍枠 brother 用 を使ったテンション確保を前提にデザインサイズを決めておくと、縫製時の歪み見積もりがしやすくなります。
2.2 画面環境の初期値
・ズームは500〜600%が目安(作者談)。ノード精度と全体把握の妥協点です。 ・TrueView(写実表示)はオン/オフを切り替え、輪郭の実態を常に確認できる状態に。 ・Sequence docker(シーケンスパネル)は常に表示。レイヤー順=縫い順です。
2.3 クイックチェック
- アートワークをインポートし、刺繍領域に収まるようスケール済みか
- シーケンスパネルが見えるか、ズーム操作に迷いがないか
- 実機テスト時の固定方法(例:刺繍用 枠固定台 での位置決め)を想定できているか

3 初期セットアップ:精密化のための画面操作
正確さは“操作リズム”から生まれます。クリック(左=直角/右=曲線)とやり直し(Backspace)のリズムを身体化しましょう。

3.1 アートワークの読み込みとスケール
- 画像をインポートし、キャンバスで見やすい大きさに調整。
- 目的サイズに合わせた倍率で、最終の生地伸縮も加味します。
実機検証の際、枠の有効範囲に収める必要があるなら、例えば マグネット刺繍枠 11x13 の作業域を想定してデザイン外径を調整しておくと安心です。

3.2 ノード入力のルール化
- 直線は左クリック、自然な曲線は右クリック。
- 迷ったらBackspaceでノード単位に戻る。やり直しの負担は最小に。
- 仕上げにReshapeで微調整。大きな修正は前段で避けます。

3.3 チェックリスト(セットアップ)
- クリック種別を意識して入力できている
- Backspaceで崩れにくいノード数に抑えている
- Reshapeは“微調整”だけにとどめられている
4 手順:雄しべ・葉脈・花弁の順にデジタイズ
シンプルな“中心→周辺→上もの”の順序で進め、後のリシーケンスを軽くします。

4.1 雄しべ(本体)をDigitize Blocksで
1) Digitize Blocksを選択し、雄しべの流れに沿ってブロックを打つ。 2) Enterで確定。ブロックが“幅”を示し、流れるようなステッチ方向を実現。
期待結果:雄しべのステッチが自然なカーブに沿って流れます。 注意:ブロックが粗いと方向が乱れます。点は“少なすぎず、多すぎず”。

4.2 雄しべの突起(小要素)をDigitize Open Shapeで
1) Digitize Open Shapeに切替。 2) 直角は左、曲線は右のクリックで小円や短い線を精密に。 3) Enterで適用。ステッチタイプはトリプルラン。 4) 雄しべ本体の背面に来るようにリシーケンスで並べ替え。
プロのコツ:Freehand Open Shapeは速い反面、微細形状では思わぬ丸めが起きます。小要素はOpen Shape、表現に“勢い”がほしい長い葉脈はFreehandと使い分けを。 クイックチェック:小円の直線/曲線の切替が意図通りになっているか。

4.3 葉脈をFreehand Open Shape+トリプルランで
1) Freehand Open Shapeで花の中心から外へ、そして戻る連続線に。 2) Enterで確定し、トリプルランを適用。
期待結果:ジャンプを最小化し、一本の連続線として縫製されます。 許容事項:フリーハンドなので100%の忠実度は求めず、スケッチらしさを活かします。

4.4 花弁をDigitize Closed Shape+Contour Stitchで
1) 既存オブジェクトを一時的に非表示にして視界を整理。 2) Digitize Closed Shapeで外周をトレース(直角=左/曲線=右)。 3) Enterで閉じ、Contour Stitchを適用。 4) 生地の“引き”を見越し、線の外側を少し広めに取るのがコツ。
決定分岐:
- テクスチャを強く出したい→Contour Stitch
- 等密度でフラットに→別のフィル(動画内では採用せず)

チェック:各花弁を個別にデジタイズし、面の流れが自然か。
4.5 小結・実務チェック
- 雄しべ本体→小要素の順で既に“上下関係”を意識しているか
- 葉脈は一筆描きでジャンプを抑えられているか
- 花弁の輪郭は外方向にわずかにオフセットできたか
5 輪郭を仕上げる:可変幅サテンとステッチ角
外周の“厚み”と“方向”が見た目を決めます。

5.1 Digitize Blocksで“左右を打つ”サテンの設計
- 輪郭線の左右をなぞるように点を打ち、幅を区間ごとに変化させる。
- Enterで確定後、サテンフィルを適用。
狙い:通常のサテンが“一定幅”であるのに対し、ブロックなら長さ方向で幅を自在に変えられます。
5.2 Add Stitch Anglesで角度を要所に挿入
- 複数の角度ガイドを配置し、曲率に追随するよう方向を変える。
- 足りなければ角度点を“増やしてから減らす”のが安全策。
クイックチェック:角度ガイドが少なすぎて“一方向に流れていないか”。
5.3 注意
- 角度の急変は“縫いの段差”に見えることがあります。角度点は緩やかな変化で配置。
- ブロックの打点は等間隔でなくてよいが、“変化点”の手前に1点置くと滑らか。
6 色・効果・背景:見栄えと縫い順を最適化
ここから“作品感”を一気に高めます。
6.1 Feather Edgeで輪郭を柔らかく
- 輪郭サテンにFeather Edgeを適用し、Side 1/Side 2を微調整。
- 外向き・内向きの不統一があれば各セクションで調整します。
期待結果:塗り絵の斜線のような“手の動き”が縫いの表情に現れます。
6.2 配色:ピンク系2色+白(雄しべ)
- 花弁フィル:淡いピンク(85)
- 輪郭・葉脈:やや濃いピンク(86)
- 雄しべ:白
プロのコツ:色数を絞ると、造形の情報が“線”と“面”に整理され、ステッチ方向の美しさが前景化します。
6.3 円形ステップル背景
- Rectangle/Circleで円形を追加し、Stipple Single Runを適用。
- スペーシングは2.0mm(動画での操作)を基準に。
- クールブルーで前景のピンクを引き立てます。
7 仕上がりチェックと期待される結果
最終プレビューで“順番・開始点・ジャンプ”の3点を詰めます。
7.1 リシーケンスの原則
- Hatchは“上のものから先に縫う”。
- 背景(円形ステップル)→花弁フィル→輪郭サテン→葉脈→雄しべ小要素→雄しべ本体、のように“被さる側”を後ろに置きます。
7.2 開始点・終了点の整列
- Reshapeまたはショートカット“H”で開始/終了点を中央寄せに置くとジャンプ減。
- 葉脈など連続線は“終点が次の始点に近い”流れを意識します。
クイックチェック:Stitch Playerで一周通して見たとき、円弧状に“巡回”する流れができているか。
サイドメモ:作品の最終写真では、白い雄しべ、ピンクの花弁と輪郭、ブルーの背景が明快に分離しつつ一体化して見えます。
8 実機への受け渡し:書き出しと刺繍
8.1 データ書き出し
- PESでエクスポート(動画ではBrotherを使用)。
- Stitch Playerで最終確認後に保存。万一に備え、段階保存が推奨です。
8.2 実機準備
- 生地を枠張りし、ピンク(85/86)、白、ブルーを準備。
- テスト縫いで“引き”と配色の見えを確認。
もし厚手生地や段差の多いアイテムを使うなら、マグネット刺繍枠 babylock 用 や snap hoop monster マグネット刺繍枠 のようなマグネット式を選ぶと、面で保持できて葉脈の細線も乱れにくくなります。
8.3 刺繍スタート
- まず背景円を最初に配置(シーケンス最上段)して縫い、以降の層が落ち着く土台にします。
- 以降は設計どおりの順で連続的に。必要に応じて糸替え。
決定分岐:
- キャップ等の曲面に縫う→対応枠の可動域やテンションを優先(例として brother pr680w キャップ用刺繍枠 を想定)。
- 平面布地→一般的な枠でOK。位置合わせはガイド印と開始点で。
9 トラブルシューティングと回復手順
症状→原因→対処の順に並べます。
- 症状:サテン輪郭が“一方向”に流れて不自然。
原因:角度ガイドが不足/配置位置が悪い。 対処:Add Stitch Anglesを増やし、曲率ピークの手前後に1点ずつ配置。
- 症状:葉脈でジャンプが多い。
原因:開始/終了点が遠い、または連続線になっていない。 対処:Freehandで一筆描きにし、Hキーで開始/終了点を中央寄せ。必要に応じて順番を“輪”になるよう調整。
- 症状:花弁の外形が縮んで線が食い込む。
原因:生地の引き。外周トレースが原図どおり過ぎる。 対処:外周をわずかに外側にオフセットして再トレース。Contourの間隔設定は動画では詳細未言及のため、目視でテクスチャを確認しながら微調整。
- 症状:雄しべの小円が潰れる。
原因:Freehandで丸めが強く出た、または点数過多。 対処:Digitize Open Shapeに切替え、直角/曲線の切替で輪郭を簡潔に。点を減らしBackspaceでやり直し。
- 症状:縫い順が前後して色替えやジャンプが増える。
原因:シーケンス上の並びが意図と逆。 対処:Sequence dockerでドラッグして、背景→面→輪郭→細部の順に再配置。
- 症状:固定が甘く細線が波打つ。
原因:生地ホールド不足。 対処:面保持できる枠を検討(例:hoopmaster 枠固定台 と併用した位置決め、または面磁力で保持する方式)。
回復のプロのコツ:プレビューで“怪しい区間”を見つけたら、そこだけノード編集→再生→保存の最短ループで。全体に戻る前に必ず一点突破で仕留めます。
10 コメントから
視聴者からは完成デザインへの好意的な反応が寄せられています。とくに最終結果のまとまり(色数を抑え、輪郭と葉脈の情報量を整理した構成)が好評でした。これは本稿の配色・輪郭設計の方針とも一致します。
付録:操作別チェックリスト(抜粋)
- ブロック入力:幅の変わり目に余分な点を打ち、角度ガイドを後から足しやすくする。
- 角度付け:少なすぎ→一方向、 多すぎ→段差。中庸を狙い、曲率ピークに重点配置。
- リシーケンス:背景を最初、被さる要素ほど後ろへ。
- 開始/終了点:中央寄せ+“巡回”の流れでジャンプ最小化。
実運用のヒント:厚手・段差・縁近くなど難条件では、dime 刺繍枠 や マグネット刺繍枠 brother se1900 用 のような面ホールドを検討すると、トリプルランの細線が安定します。さらに、長物や量産の位置決めでは マグネット刺繍枠 brother prs100 用 など機種適合の選択肢も視野に入るでしょう。
