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1 プロジェクトの概要(何を・いつやるか)
接着(フューズ)済みの布ピースを基準に、SVGから簡単にアップリケを作るのが目的です。扱うのはソフト側の変換・設定で、ミシン側では配置線を縫って布を置き、仕上げのピンステッチを回すだけ。動画では七面鳥のシンプルなデザインを例にしていますが、同じ発想は多くの刺繍ソフトで再現可能です。
- こうなる:配置線+最終ピンステッチのみ。タックダウン層がなく、縁が軽くてフラットな見た目。
- こういう時に:布をしっかり接着できる場合/広い面をサテンで覆わずに軽く仕上げたい場合。
- 向かない局面:接着が弱い・縁の耐久性を厚い糸層で守りたい・極端に毛羽立つ素材など。
なお、本手順は“ソフト側の作り方”に焦点を当てています。フープや固定治具は個々の環境に依存しますが、このチュートリアル自体ではマグネット刺繍枠は使用しません。
1.1 何が“簡単”なのか
- SVG(アートワーク)→右クリックでアップリケ化→ステッチ種をピンに変更→タックダウンを外す→インセットを90%へ、という短い流れ。
- 余計な糸層を作らず、配置線に合わせて布を置き、最後に1回だけ縁取りを縫うから、段差や糸の厚みが目立ちません。

1.2 使うソフトの幅
動画ではDIME(Designs in Machine Embroidery)系のソフト操作が示されていますが、Brother PE系、Bernina、Janome Artistic、Embrilliance、Cut N Stitch などでも、呼び名は違っても基本概念は共通です。とはいえ、本記事の範囲では特定ソフトに依存する数値や機能名はできるだけ一般化して説明します。
1.3 期待できる仕上がり
- 縁:ピンステッチが配置線に“吸い付くように”重なる、軽量でクリーンな見た目。
- 手触り:サテンの重厚感よりも、布の質感が生きるフラットな縁。
- 作業感:タックダウン省略で工程短縮、糸替えや糸切りも減ります。
2 準備するものと事前チェック
本手順で最低限必要なのは、刺繍ソフト、SVGアートワーク、そして接着済みの布ピース(あるいは後で接着する布)です。
- ソフトウェア:刺繍ソフト(任意のブランド/バージョン)。
- ファイル:SVG(例:七面鳥)。
- 材料:アップリケ用の布。できればアイロン接着シートでフューズ済み。
- カッター類:ScanNCut などのデジタルカッターがあると布ピースを正確に切り出せます(なければ手切りでも可)。
参考として、作業環境に応じてフープや固定治具を併用する読者もいますが、本チュートリアルではそこを深掘りしません。たとえば、作業机に据え置く治具として刺繍用 枠固定台を使うケースもありますが、ここではソフト設定の習得を最優先にします。
- クイックチェック:SVGを開いた時点で“ステッチ情報を持たないアートワーク”として正しく読み込めているか確認します。

チェックリスト(Prep)
- SVGが用意できている
- 布に接着シートを貼っている(または後で貼る計画がある)
- 刺繍ソフトの基本操作(インポート/右クリックメニュー/プロパティ変更)ができる
- 作業スペースが片付いている

3 ソフトの初期セットアップ(理由付き)
アートワークを“刺繍データへ変換する”のではなく、“アップリケ仕様へ変換する”のがポイントです。変換直後はサテンが初期値になりがちなので、必ずピンステッチへ変更します。
3.1 SVGをアートとして読み込む理由
- アートワーク=拡大縮小に強いベクター。輪郭情報から刺繍線を生成できる。
- 読み込み時にステッチが付いていない状態が正解。余計な糸層を後から消す必要がない。
3.2 アップリケへ変換(右クリック)
- 操作:アートワークを選択→右クリック→“アップリケへ変換”。
- 目的:輪郭から配置線/タックダウン/仕上げ縫いの枠組みを一度に用意すること。


3.3 ステッチ種をピン(Eステッチ)に変更
- 初期値がサテンのことが多いので、プロパティで“Pin”や“E-stitch”相当へ変更。
- 理由:接着済みの布なら、軽いピンステッチで縁をきれいに締められる。サテンほどの厚みは不要。


チェックリスト(Setup)
- 読み込みは“ステッチなしのアート”である
- 右クリック変換でアップリケ化できた
- ステッチ種はピン(Eステッチ)へ変更済み
4 手順:SVGをアップリケ化して刺繍する
ここからは“余分を削る”工程。配置線は残し、タックダウンは外し、仕上げのピンステッチが配置線に重なるようインセットを詰めます。
4.1 タックダウンを外す
- プロパティで“タックダウン”をオフ。
- 理由:接着で固定できるため、タックダウン層は不要。糸が重ならず軽い仕上がり。


プロのコツ:色替えストップを“配置線の直後”に入れておくと、ミシンが自動停止して布を置きやすくなります(プロパティの“Change Color”を有効)。

4.2 インセット(オフセット)を90%へ
- 初期値は50%(布内50/布外50)になりがち。
- 90%へ上げて“配置線とピンステッチの重なり”を作るのがポイント。
- 変更後は拡大表示で、線がぴたりと重なって見えるか確認します。


注意:90%は動画の例で効果的だった値です。ソフトや縮尺により最適値は異なり得るため、“適用→拡大確認→微調整”のサイクルで狙い通りに合わせてください。
4.3 ステッチ長・幅、色替えストップの確認
- デフォルトでステッチ長1.8mm、幅1.6mmの例が示されました(動画内)。ここは必須変更ではなく、見た目の好みに応じて微調整。
- “Change Color”を有効にして配置線後に停止できるようにしておくと、布配置が確実です。

クイックチェック:
- 画面を拡大し、タックダウン線が消えているか
- 配置線とピンステッチがほぼ一致しているか
- 仕上げ縫いと配置線だけが残っているか
チェックリスト(Steps:設計パート)
- タックダウン=オフ
- インセット=90%(目安)。Apply後に拡大チェック
- 配置線後に色替えストップ=オン
- ステッチ長/幅=必要なら微調整
4.4 いよいよ刺繍(配置線→布→仕上げ)
- 配置線を縫う→接着済み(またはここで接着する)布ピースを“線にぴったり”合わせる→最終ピンステッチで縁取り。これで完了です。
- ScanNCut等で“アップリケの配置線形状そのまま”に布を事前カットしておくと、サイズの食い違いが起きにくく、合わせが速いのが利点です。
ここでも本稿の主旨はソフト設計なので、フープや固定具の選択は掘り下げませんが、たとえばミシン環境によっては刺繍枠よりも固定しやすい治具を選ぶ人もいます。ただし本手順ではそれらの使用を前提にしていない点に注意してください。
- 期待結果:ピンステッチが縁の際を均一にトレースし、タックダウンの余計な糸層が見えないクリーンな輪郭。
注意:本手順の主眼は“ソフトでの最適化”です。周辺機材については、読者の環境で適切なものを選定してください。例えば、DIME系アクセサリの一部(例:dime 刺繍枠)を使う読者もいますが、動画自体ではアクセサリの使用有無に触れていません。
5 仕上がりチェックと合格基準
- 視認:ピンステッチが配置線に沿って均一に走り、縁の内外に“二重線”が見えない(タックダウンが残っていない)。
- 手触り:段差が少なく、軽い縁取り。サテンほどのボリュームはないが、接着で十分に保持。
- 端面:ほつれやズレが起きていない。もしわずかに外れた場合は、インセット再調整の候補。
クイックチェック:ミシンを止めて“5〜10cmだけ”試し縫い→拡大確認→OKなら続行。少量の試しで問題を早期に発見できます。
6 完成後の扱いとワークフロー整理
- ワークフローの核:SVG→アップリケ変換→ピンに変更→タックダウン削除→インセット90%→配置線→布→仕上げ。最短でブレずに繰り返せます。
- サイズの扱い:ScanNCutで切った布は“配置線由来の形状”をそのまま使うのが基本。余白を盛らず、ソフト側でもサイズをいじらない方針が筋道をわかりやすくします。
- 応用:七面鳥以外のシルエットでも同手順で再利用可能。SVGで輪郭が綺麗なものほどきれいに出ます。

7 トラブルシューティングとリカバリー
症状→原因→対処の順に整理します。
- 症状:縁に二重線が見える/糸が重なって厚い。
- 原因:タックダウンが残っている。
- 対処:タックダウンをオフ→適用→拡大再確認。
- 症状:ピンステッチが布端から外れる/布を十分に捕まえない。
- 原因:インセットが浅い(50%など初期値のまま)。
- 対処:インセットを90%へ→Apply→拡大チェック→必要なら±数%で微調整。
- 症状:配置線の後に布を置くタイミングが取りづらい。
- 原因:停止の自動化がない。
- 対処:“Change Color”を配置線の直後に設定し、ミシンの自動停止を活用。
- 症状:布が動く/ほつれる。
- 原因:接着不足または加熱圧が弱い。
- 対処:適正温度・時間で再接着。必要に応じて縁の密度を微調整(ただしサテン化は本流ではない)。
- 症状:輸入時にサイズがズレる。
- 原因:アートワークではなくステッチデータを読み込んだ、またはソフトの単位設定が異なる。
- 対処:ファイル種別をSVG(アート)に。単位設定を確認。
プロのコツ:ScanNCutで切る場合、必ず“アップリケの配置線”を元にした形状を使い、ソフト側でもサイズ変更を避けると、“置けば合う”設計になり、ズレが激減します。
注意:フープや固定具は本手順の必須ではありません。読者の中にはマグネット刺繍枠 brother 用やsnap hoop monster マグネット刺繍枠を活用する人もいますが、動画ではこうした特定の機材運用に踏み込んではいません。必要に応じて各自の環境に合わせて選択してください。
8 コメントから
視聴者からは店舗の所在州に関する質問がありましたが、動画内・コメント欄ともに回答は掲載されていませんでした。本チュートリアルの内容(SVG→アップリケ→設定→刺繍)に直接関わるQ&Aは特に見当たりません。
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補足:本ガイドは“ソフト操作と設定理由”の再現性を重視しています。周辺機材の選定は各環境に委ねられます。たとえばbrother ミシンで作業する場合でも、ここではミシン機種固有の設定や枠サイズには踏み込みません。別の読者は刺繍用 枠固定台やマグネット刺繍枠を用いることがありますが、本工程の核心は“タックダウンを外し、インセットを詰めたピンステッチで接着布をきれいに縁取る”ことにあります。必要ならマグネット刺繍枠以外の汎用固定でも問題ありませんし、DIME系のアクセサリ(例:dime 刺繍枠)を使うかどうかも必須ではありません。最終的には、あなたの作業環境で確実・安全に固定できる方法を選べば十分です。
