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動画を見る:Digitizing the Nike Lakers Logo for Embroidery with Inkscape and Ink/Stitch(YouTube)
ロゴを美しく縫い上げる刺繍データ化は、最初の数クリックで勝負が決まります。色の分離、輪郭の精度、縫い順の設計——どれもInkscapeとInk/Stitchなら無料で実現可能。

本記事では、Nike Lakersロゴを例に、ラスタ画像からベクター化、パス整形、Ink/Stitchの設定、シミュレーション、PES書き出し、そしてミシンでの仕上がりまで、動画の流れを忠実に追いながら、つまずきやすいポイントを丁寧に解説します。

■ 学べること
- Trace Bitmapでの色抽出とスキャン数の調整
- Break ApartとDifferenceでの色レイヤー分解と輪郭作成
- Layers and Objectsでの縫い順(スタッキング順)設計
- Ink/Stitchの主要パラメータとシミュレーター確認
- SVGとPESの2段保存による運用の安定化
はじめに:Inkscapeで始める刺繍データ化 ラスタ画像(PNGやJPEG)をそのまま刺繍には使えません。縫い針は「ピクセル」を理解しないからです。Inkscapeでベクター化し、Ink/Stitchのパラメトリックな設定へ橋渡しすることで、刺繍機が理解できるステッチ命令に変換できます。ここで扱うロゴは紫と黄色の2色。Trace Bitmapで色面を抽出し、Break Apartで部品化、Differenceで輪郭と内側フィルを切り分けます。

ワークスペース準備とロゴ画像の取り込み まずはInkscapeを開き、新規ドキュメントを作成。ドキュメントプロパティで単位をin(インチ)へ、幅4.0、高さ8.0、縦向きに設定します。動画ではこのキャンバスに対し、ロゴ画像をドラッグ&ドロップで読み込み、埋め込み(Embed)で取り込みました。画像は大きく入ることが多いので、縦横比のロックをオンにしてから縮小し、キャンバスに収めます。

プロのコツ:取り込みは必ず「埋め込み」に リンク参照だと元ファイルのパスが変わった際に破綻します。ダイアログが出たら既定の埋め込みでOKを。巨大すぎる画像は作業の足かせになるため、まずは見やすいサイズへ。

注意:縦横比ロックを忘れない 歪みは後工程で取り戻せません。コントロールバーの鍵マークを必ずオンにしてからサイズ調整しましょう。

ラスタからベクターへ:Trace Bitmapの使い方 Path > Trace Bitmap…を開き、Detection modeはColorsを選択。Scansは動画では最終的に4に設定して、色がはっきり分かれるようにプレビューを確認してから適用しました。Live updateを使って、境界のにじみや色の拾い過ぎがないか事前チェック。満足したらApplyでベクターを生成します。

クイックチェック:過不足のない色数か スキャン数が少なすぎると抜け、多すぎると不要色が生まれます。プレビューで輪郭の鋭さと色の独立性を確認しましょう。

よくある質問(要約)
- プレビューが出ない:画像が選択されているか、Inkscapeのバージョンを確認。コメントでも「どのバージョン?」というやり取りがありました。
- 白が抜ける:白は透明に見えがち。必要なら別色として拾えるスキャン数やモードを調整しましょう。

刺繍向けにパスを整える:Break ApartとDifference Trace後の新しいベクターは、まず元のラスタを削除してから中央に配置し、Path > Break Apartで色ブロック単位に分解します(Objectsパネルを開くと管理が楽)。文字ごとの細分化が必要なら、もう一度Break Apart。不要な重複アウトラインや背景要素は、表示の目隠しを活用しつつ安全に削除しましょう。

注意:消し過ぎはCtrl/Cmd+Zで即座に戻す 必要パーツまで消すと復旧が面倒です。ヒストリー前提で、少しずつ削るのが安全。Objectsパネルで「表示/非表示」を切り替え、正解を吟味してから削除しましょう。

Differenceで輪郭とフィルを切り出す 外側の黄色アウトラインを複製し、内側は紫に。外枠(黄色)と内側(紫)を両方選択し、Path > Differenceで黄色から紫を引き算。これをN、I、K、E、さらにスウッシュにも繰り返します。重なりを正しく解消することで、アウトラインとフィルが干渉せず、刺繍での段差や重ね縫いを避けられます。

プロのコツ:選択順で結果が変わる Differenceは引く順が重要。外→内の順に選んでから適用しましょう。逆にすると想定外の抜け方になります。
レイヤー順で縫い順を設計 Objectsパネルで、紫のスウッシュを最下段に置き、文字のアウトラインとフィルを論理的な順で積み上げます。動画では「最初の文字を下へ、最後の文字を上へ」という考え方で、縫い進みが自然な流れになるよう並べ替えていました。要は色替えやジャンプを最小化し、仕上がりをきれいに保つための順番設計です。

クイックチェック:見た目と縫い順は一致しているか Underlay→メインフィル→境界の順など、想定するステッチの階層がレイヤー順に反映されているかを再確認。隠れているパスがないかも見落としなく。
Ink/Stitch設定とシミュレーション 全選択後、Extensions > Ink/Stitch > Paramsへ。動画で示されていた項目には、Auto-fill underlayやAngle of finest fill stitches、Expand fills、最大/最小ステッチ長、Running pitch、列間隔、Skip stitchなどが含まれていました。ここでパラメータを適用したら、Simulator/Realistic Previewで縫いの流れを逐次再生して確認します。

注意:シミュレーションを飛ばさない シミュレーターでの可視化は材料を使う前の最終試験。ジャンプの多さ、色替えの順、フィル方向の不整合など、気づいた点はParamsに戻って修正しましょう。
コメントから(要点抜粋)
- 「Ink/Stitchが見当たらない」→拡張機能なので別途ダウンロード(公式:inkstitch.org)。
- 「リアルプレビューが回りっぱなし」→TraceとBreak Apartでパス化されていないと生成されません。画像がパスか、バージョン違いの影響も確認を。
- 「ジャンプスレッドは普通?」→一般的な現象(jump stitch)です。必要に応じてTrimのコマンド付与で後処理も可能。
- 「Break Apartが効かない」→対象が画像のままの可能性あり。Trace Bitmap後のベクターを選択しているか再確認。
データの保存:SVGとPESへの書き出し 最初にInkscape SVGとして保存(将来の修正用)。続けてInk/Stitchの書き出しからBrother向けにPES形式を選択して保存します。動画ではBrother PE535を使用していたためPESが選択されていました。ご自身の機種の対応形式(例:JEF、DSTなど)は事前に確認を。USB経由でミシンに渡す場合は、USBのフォーマット(例:FAT32)やフォルダ階層のルールにも注意しましょう。
プロのコツ:二段保存で安全運用 編集可能なSVGと、ミシン用のPES(ほか各社フォーマット)を両方確保しておくと、後戻りや部分修正が容易です。ショップや外部の刺繍業者に渡す際も、要望に応じたフォーマット出力が可能になります。
ミシンで縫う:仕上がりの確認とポイント 最後はBrother PE535で実機ステッチ。紫と黄色の糸でロゴが縫い進む様子を確認できます。ジャンプスレッドが発生するのは通常の挙動で、必要なら後でカット。布地の歪みは不適切な枠はめが原因になりやすいので、テンションが均一になるよう注意しましょう。

注意:素材・環境によりパラメータは最適化が必要 動画で示されたInk/Stitchの数値は一例です。布地・糸・仕上がりの質感に応じて微調整を。別機種(例:JanomeやRicomaなど)では、適切な書き出し形式と読み込みルールを確認してください。
よくあるつまずきと対処
- Traceのプレビューが出ない:画像選択有無、Inkscapeのバージョン、カラーモードを再確認。
- Break Apartで何も起きない:ラスタのままでは不可。Traceでパス化→ベクターを選択→適用の順に。
- 縫いが粗い/ジャンプが多い:レイヤー順の見直し、Underlayや密度、角度をParamsで調整。必要に応じてTrimコマンド。
- 書き出し後に機械で読めない:フォーマットの互換性、USBのフォーマットやファイル配置をチェック。
小ワザ集(現場のTIPS)
- Objectsパネルで要素を素早く非表示→問題箇所の特定が楽に。
- Differenceの前に複製を取ると、後戻りせず別バリエーションも保持可能。
- シミュレーターは「色替え」「針飛び」も視認できるので、縫い順の無駄を徹底的に排除できます。
関連機材・枠の話(補足) ブランドや機種で取り回しは変わります。Brotherユーザーには、USBとPESの運用が一般的。周辺機材として磁気式の刺繍枠を活用することで、厚物や小物の固定が楽になるケースもあります。たとえば、小型機での運用時にマグネット式の枠を検討する読者も多いでしょう。こうしたアクセサリーは選択肢が豊富で、作業効率に直結します。磁気 刺繍枠
Brotherの対応枠を探す際には、サイズ互換やシリーズ対応の表記に注目を。例えば、PES運用とも相性の良いBrotherラインではアクセサリーが充実しています。購入前に実測の縫製可能エリアを確認し、過度な拡大縮小を避けるのが鉄則です。brother 磁気 刺繍枠
同様に、Janomeユーザーの場合は機種別の枠仕様が存在します。たとえばコメント欄ではJanome MC400Eに関する話題も見られました。専用枠の互換性やサイズ表を事前に確認することで、縫いの安定性が上がります。janome mc400e 刺繍枠
ミシン買い替え・増設を検討する場合、上位機の広い刺繍範囲はレイアウト自由度や作業時間の短縮に直結します。10針クラスの多針機では、周辺アクセサリの選択肢も拡がります。brother pr1055x
一方、練習用やエントリー用途であれば、必要十分な枠と安定した固定方法の習得が品質を左右します。磁気式の枠は素早く強固に固定できるため、厚手生地やキャップ周りの試行に役立つケースがあります。磁気 刺繍枠 embroidery
データ販売や外注に渡すときは、相手先ミシンの対応形式と枠サイズを必ず確認。たとえばBrother系の依頼先ならPES、JanomeならJEFなど、相手環境に合わせた納品でトラブルを避けられます。枠サイズの指定がある場合は、ベクターの段階でスケールを合わせてください。brother 刺繍枠 sizes
加えて、ミニマムな設備で効率を上げたい方は、マグネット式のフレームシステムも検討価値あり。反復作業の段取りが劇的に改善することがあります。mighty hoop embroidery
最後に:動画の忠実なトレースが成功への近道 本記事は動画の工程順を踏襲しています。数値や設定は素材・機種で変動しますが、核となる流れ——Traceで正しく色を拾い、Break Apartで完全に分離し、Differenceで衝突のない輪郭を作り、レイヤー順で縫い順を設計し、Params→シミュレーター→PESの順に進める——を守れば、再現性の高いデータ化が可能です。仕上げは実機で確認し、次の改善へつなげましょう。
